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札幌高等裁判所 昭和45年(ネ)194号 判決

控訴人 日本国有鉄道右代表者総裁 磯崎叡

右代理人 杉山薫

〈ほか三名〉

控訴人 旭川トラック株式会社

右代表者代表取締役 湯佐英司

右訴訟代理人弁護士 岸田昌洋

被控訴人 石黒フミ

〈ほか六名〉

以上七名訴訟代理人弁護士 広谷陸男

主文

一  原判決中被控訴人石黒フミに関する部分を次のとおり変更する。

1  控訴人両名は連帯して被控訴人石黒フミに対し、金五〇万円およびこれに対する昭和四二年二月一〇日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人石黒フミのその余の請求を棄却する。

3  被控訴人石黒フミと控訴人らとの間に生じた訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを五分し、その四を同被控訴人の、その余を控訴人らの各負担とする。

4  この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

二  被控訴人石黒知子、同石黒公子、同石黒節子、同石黒光子、同石黒清子、同石黒修一に対する本件各控訴を棄却する。

三  当審における訴訟費用中被控訴人石黒知子、同石黒節子、同石黒光子、同石黒清子、同石黒修一と控訴人らとの間に生じた部分は、控訴人らの負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一  本件事故の発生、その状況、控訴人らの賠償責任の有無についての、当事者間に争いのない事実、争いのある事実についての当裁判所の判断は、次のとおり訂正、付加するほかは、いずれも原判決の理由説示一、二の1ないし6、三の1の(一)、(二)、2、3(原判決一〇枚目裏四行目から一六枚目表九行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一一枚目表一〇行目に「一、二米」とあるのを、「一・二米」と訂正する。

2  控訴人国鉄は、転てつ手石山栄一には過失がないと主張する。右主張の採用し難いことは、原判決が既にその理由説示三の2(一五枚目表二行目から一六枚目表五行目まで)において説示しているところであるが、さらにふえんして説明する。

まず、本件現場は、既に認定したとおり軌条が入換貨車の進行方向に向って右側にカーブしているのであるから、貨車の横揺れが直線軌条進行の場合に比し大きく、また、個々の貨車の左前部が、若干外側にはみ出る形で貨車左横中央部のそれより大きな軌跡をえがきつつ進行するであろうことは、推測に難くない。そうすると、本件二両目の貨車の左前部と駐車中の本件トラックとの間隔が、一時的にもせよ、控訴人国鉄主張の約〇・四四メートルより狭いものとなるであろうことは、容易に推認しうる。なぜなら、同控訴人の右主張は、カーブや横揺れ等を考慮に入れず静止状態における貨車の幅や、石山転てつ手の腕の長さ等を基礎に単純に加、減算したものだからである。次に、本件トラックが駐車している場所は、既に認定のとおり凍結した路面で、四・五度の勾配をもって軌条側に傾斜し、さらに、なんらの障害物のない右路面端から軌道まで約一・二メートルの間は、一一度の勾配をもって軌条側に傾斜していた。そして本件トラックは、右側後輪が右路面の軌条側端ぎりぎり近くに位置する状態で駐車しているのであるから、入換貨車の通過によって生ずる路面の震動により、トラックが横すべりを起して軌条側に移動するおそれがあることは、容易に予測しうるところである。そうしてみると、石山転てつ手が、いわゆる接触限界確認をして指先からトラックまで約〇・二〇メートルの隔りがあることを確めたから、安全確認義務をつくしているとか、トラックの横すべりについて予見可能性がなかったとかとは、とうてい言いえない。この点に関する控訴人国鉄の主張は、採用できない。

二  そこで進んで被控訴人らが蒙った損害等について判断する。

1  被害者吉郎の逸失利益および被控訴人らの相続関係についての当裁判所の判断は、次のとおり訂正するほか、原判決理由説示四の(一)の1、2(原判決一六枚目表一二行目から一七枚目裏七行目まで)と同一であるから、これを引用する。

原判決一七枚目表末行の「原告フミが吉郎の妻であること」の次に、「原告節子、同光子、同清子、同修一が吉郎の子であること」と挿入する。

2  さて、≪証拠省略≫によると、被控訴人フミが昭和四四年度以降労働者災害補償保険法に基づく遺族補償年金を受給している事実が認められる。控訴人国鉄は、被控訴人節子、同光子、同清子、同修一も右年金を受給している旨主張するが、同法第一六条の二、同条の三、同条の四によると、本件の場合における右年金の受給権者、受給資格者のうち配偶者として最先順位にある被控訴人フミひとりであって、その余の右被控訴人らは、一八歳未満である限り、受給資格者ではあるが支給を停止され、ただ右フミに支給さるべき年金額の算定の基礎となる遺族の数に算入される地位を有するにすぎないことが明らかであるから、右主張は採用できない。なお、控訴人国鉄の右主張に対し、被控訴人らはこれを認める旨自白しているが、右自白は、年金の受給権の有無についての権利関係に関する陳述であって講学上の権利自白に属し、裁判所を拘束するものではないと解する。しかして右年金の額が昭和四四年度は年額二〇万五、三一二円、昭和四五年度以降は年額二三万六、三一九円であることは、控訴人国鉄と被控訴人フミとの間において争いがない。このように、不法行為によって死亡した者の遺族が労働者災害補償保険法に基づく遺族補償年金を受給する場合には、衡平の原則に照らし、右年金の現在価を同人が相続した死亡者の逸失利益の損害賠償請求権の額から控除するのを相当とする。ところで、被控訴人フミの生年月日が控訴人国鉄主張の大正一三年五月一三日であることは、同被控訴人において明らかに争わないからこれを自白したものとみなすべく、したがって、亡吉郎死亡の昭和四二年二月九日現在における右フミの年令は四二歳であり、第一一回生命表による同女の平均余命が三三年であることは明らかである。そして、被控訴人知子、同公子については、主張がないから年金額の算定の基礎となる遺族の数に算入しないものとし、被控訴人節子、同光子、同清子、同修一については、当事者間に争いのない生年月日から起算して一八歳に達したときには、その翌月から年金額を改定するものとし、その年金額についてホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除して右昭和四二年二月九日現在における現在価を算出すると、別紙計算書のとおり金三二六万一、一三四円となる。右金額は、被控訴人フミの相続にかかる逸失利益の損害賠償請求権の額全額を補てんするに足りるから、右フミの右請求権は存在しないことに帰する。

なお、控訴会社は、右遺族補償年金控除の点につきなんらの主張をしないが、控訴人国鉄と控訴会社とは、不法行為責任の有無の点については利害相反するとはいえ、損害額を争う点においては利害が共通しているばかりか、共同不法行為者として、後に求償関係に立つこともあるのであるから、かかる場合には、特に参加の申立をまたずとも当然に補助参加関係を認め、控訴人国鉄がした右年金控除の主張は、同時に補助参加人として控訴会社のためにもしたものと解するのが相当であり、したがって、右年金控除の主張は控訴会社のためにも訴訟資料となる。

3  被控訴人らの慰藉料の額、自賠法によると保険金の受領、その充当関係についての当裁判所の判断は、原判決理由説示四の(二)、(三)(原判決一七枚目裏八行目から一八枚目表一二行目まで)と同一であるから、これを引用する。

三  それゆえ、控訴人らは連帯して、被控訴人フミに対し慰藉料一〇〇万円から自賠法による保険金五〇万円を控除した金五〇万円およびこれに対する本件事故の翌日である昭和四二年二月一〇日から支払いずみまで年五分の割合による遅延損害金を、その余の被控訴人らに対しそれぞれ相続した逸失利益の損害賠償債権六〇万六、五〇六円と慰藉料五〇万円との合計額一一〇万六、五〇六円から自賠法による保険金一六万六、六六七円を控除した金九三万九、八三九円およびこれに対する右同日から支払いずみまで年五分の割合による遅延損害金を、それぞれ支払う義務がある。

されば、被控訴人らの本訴請求は、右の限度において正当として認容し、その余を失当として棄却すべきであるところ、原判決中被控訴人フミに関する部分は、右と結論を異にし不当であるから、これを変更し、その余の被控訴人に関する部分は、右と結論を同じくして相当であるから、同人らに対する本件各控訴はこれを棄却すべきものとし、民事訴訟法第三八六条、第三八四条、第九六条、第九五条、第八九条、第九二条、第九三条にしたがい、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 原田一隆 裁判官 神田鉱三 岨野悌介)

〈以下省略〉

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